強度行動障害問題について
...理解と適切な対応のための参考に...
(大阪府重症心身障害児者を支える会 強度行動障害部会主催の研修会より)

  以上の資料は研修会の報告集T.U.V集より抜粋しました。詳しい内容は報告集をお読み下さい。

 行動障害の類型(行動障害研究会1988)

 ○ 食事関係 (拒食、異食、偏食)
 ○ 物こわし (器物破損、服破り)
 ○ 他害 (かみつく、叩く、ける、つねる、なぐる、頭突き、粗暴、目を突く)
 ○ 自傷 (頭たたき、顔たたき、傷いじり、爪はぎ、髪抜き、腕かみ)
 ○ 異常な動き (徘徊、飛びだし、多動)
 ○ こだわり (場所、物、人、予定)
 ○ 睡眠障害 (不眠、起きだし、昼夜逆転、浅い睡眠、寝つきの悪さ)
 ○ 騒がしさ (奇声、うなり、大声)
 ○ 排泄行為の障害 (便の壁ぬり、便食い、便いじり、小便飲み、生理の扱い)


 強度行動障害とは

 「発達障害を持った人達の環境への著しい不適応を意味し、激しい不:安、興奮、混乱の状態で結果的には、多動、疾走、奇声、自傷、固執、強迫、攻撃、不眠、拒食、異食などの行動上の問題が日常生活の中で高い頻度と強度の形式で出現し、現状の養育環境では著しく処遇困難なものをいい、そうした行動面から定義する群である。」

 「強度行動障害というのは、その人が生来的に持っている資質そのものではなく、資質と不適切な育て方との相互交渉の中で形づくられた状態であり、適切な働きかけをすることで軽減することが可能です。」 ( 「対応のまずさ」が原因の7割 ) 
                                                                                        (飯田雅子)

 「強度行動障害の判定基準」評定 10点以上
       特別処遇事業の対象は 20点以上


強度行動障害の要因

 1.本人の側の問題,

  (1) 個体の生物学的問題
    A) 気質性格
    B) もともとの脳障害に関連した行動症候
    C) 疾病 (てんかんなどの身体疾患、精神疾患の合併 )
  (2) 発達的間題
    A) 生理的身体的機能
    B) 認知、理解のレベル
    ) コミュニケーション能力
    D) 情動情緒の分化と発達

 2 環境の側の問題

 (1)過大な期待、要求水準
 (2)環境の構造化不足(刺激の量、質の統制)
 (3)不明確な情報伝達
 (4)威圧的対応(共感的対応の欠如)
 (5)急性慢性のストレス事象
 (6)不適応行動の強化

 3 両者の相互的関係の結果としての問題(心理的性格的問題)

 (1)安心感の欠如
 (2)達成感、満足感の欠如
 (3)生活歴により学習した(誤った)行動様式の反復
 (4)自我機能、性格傾向の偏り

 強度行動障害につながりやすい人の内面を理解し援助を考える

 強度行動を示す人
  自閉症  
  強迫性障害(合併)
  そううっ様状態(合併)
  知的障害にADHD( 注意欠陥多動性障害 )

                                                 (三島卓穂)


 強度行動障害と自閉性障害

自閉性障害は精神医学的に診断基準の定められている発達障害であり、強度行動障害は状態像を表す操作的に定義された、いわば福祉施策のための行政用語である。

 自閉症についての基本的な事実

 (1) 脳の神経学的障害による発達障害
 (2) 障害は完全に治癒する事がなく生涯にわたる
 (3) 1000人に1〜2人の割合で発現する.
 (4) 男女の比率は男4対女1
 (5) 約70%の人はIQが70以下、知的な遅れのない人(高機能自閉症)から知的な遅れが最重度の人までいる
 (6) 他の障害とも合併しうる(10数%〜35%に、てんかんの合併が見られる)

                        (新澤伸子)


 自閉性障害の特徴

 @ 社会性の障害(人間関係がうまく作れない) 自己本位で相手の気持が掴めない
 A 同一性保持 ( いわゆる「こだわり」 )の傾向をもつ ( 輿味関心があるととらえると間違う )他へ広がらない
 B コミュニケーションがとれない、弱い 、言葉が使えない方が多い(使っても反復語)
 C 感覚に偏りがある (視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚)

 どのように対応するか

  ●反応をつかまえる繊細な目

 
@ 障害の特性を把握し、そこに立ってケースの行動を解釈理解する。 この場合必ず「肯定的、好意的」に解釈し分析する。
   彼らの感性は鋭い、自分がどうとらえられているかシヤープに感じとる。困る行為が出てくると「ダメ」の前提で始めがちだが、それは既にズレを起こす。「こんな形でしか表せないのかな」と肯定的に捉える。

 A 生理的快適状態をつくり出す環境。
    生理的快適さとは、快食、快眠、快便の事、これらをうまく機能させるためにその人に合った「運動量」、又、精神的快適さも必要一
    肯定的対応による充足感。
 
 B わかりやすい状況をつくる。
   ● スケジュール−−−−1日の過ごし方
    場所−−−−.どこでやるのか
    人−−−−だれがかかわるのか
    やり方

 C コミュニケーションをとる。
    コュニケーションの手段を見つける。手話、カード
    本人の反応をキヤッチし、イェスかノーかを見分ける繊細な目と心を、私達が磨いていかなければならない。
    本人に「解ってくれてよかった」「解って楽しい」という感覚を得てもらい、人間関係へと発展させる。
     ● 一方的コミュニケーションはだめで、反応をとらえることを忘れないこと。
    ●  コミュニケーションがうまくとれた時、本人はおそらく「わが意を得たり」といつた様相を示す、それを手がかりに更に関わりを深める。

 D 安心できる関係をつくる。  きちんと見られれば安心する。

 E 医療からのアプローチ
 
                                     (飯田雅子)


行動障害のとらえ方→障害の理解と援助の個別化

自閉症の人の行動障害は、自閉症の障害特性を周囲がきちんと理解出来ないために引き起こされ悪化する。
障害に起因する苦手な部分、出来ない部分、不快に感じる部分を、こちらが配慮しないから。
障害を理解し、得意な事、出来る事を活かして生活を組み立て直す事が大事。
一人ひとりの障害特性を理解し、本人にとって、何が必要で何がストレスになっているのかを把握し、チーム全体が共通の認識に立って計画的に対応しなければ、行動障害は減らない。

結論を先に言うと「行動障害は環境を整える事で軽減出来るという事
アプローチの第1段階としては、一人ひとりの障害、一つひとつの障害の問題を正しく理解する事。

障害に向けての援助を一人ひとりに合わせて個別化していくことが重要である。


自閉症の理解

 自閉症は  言葉の使用だけでなく、コミュニケーションに障害がある。
         概念や意味の理解がうまく出来ない。
         聴覚刺激より視覚刺激への反応が良好。
                        といった理解に基ずくと………
 言われることの意味がわからない。
  ●自分が何をすればいいのかわからず、いつも不安にさらされている。
  自分の伝えたいことが伝えられない。
  ●いっも強いストレスにさらされている。という混乱しやすい状態であることが想像出来る。
  ●彼らは適切な教えられ方をしていない。「適切な」とは「彼らにわかる形」でいうこと、社会的なルールや社会生活を送るために必要なスキルが不足。

   自閉症は今では世界の専門家のほとんどが脳の器質的(脳に何らかのキズがある)あるいは、機能的(脳の働きがうまくいかない)な障害であるとの推定を支持している。
  ( 彼らは「抽象的な概念を取り扱うことが苦手だ」といわれている) 目の見えない人は、物理的な障害をもっている。それと同じで、目のみえない人に「よく見なさい]という言い方はしない。,

援助の具体的な方法

 構造化といわれる生活の組み立て、
   理解しやすい環境をつくる。  理解しやすい方法を使う。   見てわかる形で生活の組み立てをする

  @ 生活空間の組み立て(物理的構造化)
   
A  時間の取扱いの組み立て(スケジュール)
   B 活動の組み立て(ワークシステム)
   
 C 課題を判りやすく(タスクオーガナイゼーション)

 ● 代替コミュニケーション手段の開発.−−理解しやすく使いやすいコミュニケーション手段を開拓。その使い方を教え、生活の場に生かす

 物の構造のプラス効果

  個室の持つ計り知れない効果

    いざという時に逃げ帰れる場所がある安心感が、生活や対人関係の広がりを生み出す。
    ユニツト単位での生活の落ち着き、(大きすぎない集団の良さ、騒ぎが他へ派生しない)。
    普通の暮らしに容易に近づける(そんなに職員が意識しなくても)。
    丈夫な作り、木の暖かみ。
    対応の個別化が出来る設備(エアコン、照明、施錠など)。

スタッフ配置のプラスの効果
 

   生活アシスタントの関わりの重要さ(足りないマンパワーを補ってくれる、専門家以外の人との関わりという意味での社会との大きな接点)。
 個別スケジュールに沿った生活(やることがある、個々のぺ一スで組み立てられる、援助者も必要な手伝いが出来る、余計な手出しをしない。
 職住分離、昼夜スタッフ分離の効果。、(昼は緊張、夜はリラックス)スタッフも役割が徹底出来る。

                                      (藤村 出)


自閉症と知的障害(精神遅滞)の違い

  極論すると自閉症は精神発達のこだわり(質的)。
  知的障害は精神発達の遅れ(量的)が特徴的。
  自閉症と知的障害は、相容れないものでない。
  自閉症の子供の2/3〜3/4、同時に知的障害がある。
  一方、重度、最重度の知的障害の子供には、多かれ少かれ自閉症の行動特徴がいくつか見られる

 ☆ 自閉症の人を構造が明確化されておらず、コミュニケーションが成立しない環境に置くことは、心理的虐待に他ならない。

    構造とは、状況の意味や見通しであり、それを理解しやすくするのが、構造(明確)化である。それは、コミュニケーションを改善する。
    構造化することで、特にメッセージの重要な要素である。
    「いつ」「どこで」「なにを」「どれだけ」「どんなやり方で」「いつまで」(おわり)」「終わった次はどうなる」など、理解出来るようにする

                                                                        (門 真一郎)


強度行動障害の内容と判定基準

行動障害の内容 行動障害の目安の例示       判 定 基 準 表
  1 点   3  点  5  点
1.ひどい自傷 肉が見えたり、頭部が変形に至るような叩きをしたり、爪をはぐなど 週に1、2回 一日に1、2回 一日中
2.強い他傷 噛みつき、蹴り、なぐり、髪ひき、頭突きなど、相手が怪我をしかねないような行動など 月に1、2回 週に1、2回 一日に何度も
3.激しいこだわり 強く指示しても、どうしても服を脱ぐとか、どうしても外出を拒みとおす。何百メートルも離れた場所に戻り取りに行く、などの行為で止めても止めきれないもの。 週に1、2回 一日に1.2回 一日に何度も
4.激しいもの壊し ガラス、家具、ドア、茶碗、椅子、眼鏡などを壊し、その結果危害が本人にもまわりにも大きいもの、服を何としても破ってしまうなど 月に1、2回 週に1、2回 一日に何度も
5.睡眠の大きな乱れ 昼夜が逆転してしまっている、ベッドについていられず人や物に危害を加えるなど 月に1、2回 週に1、2回 ほぼ毎日
6.食事関係の強い障害 テーブルごとひっくり返す、食器ごと投げるとか、椅子に座っていれず、皆と一緒に食事できない。便や釘.石などを食べ体に異常をきたしたことのある拒食、特定のものしか食べず体に異常をきたした偏食など。 週に1、2回 ほぼ毎日 ほぼ毎食
7.排泄関係の強い障害 便を手でこねたり、便を投げたり、便を壁面になすりつける。脅迫的に排尿排便行動を繰り返すなど。 月に1、2回 週に1、2回 ほぼ毎日
8.著しい多動 身体.生命の危険につながる飛び出しをする。目を離すと一時も座れず走り回る。ベランダの上など高く危険な所に上る。 月に1、2回 週に1、2回 ほぼ毎日
9.著しい騒がしさ たえられない様な大声を出す。一度泣き始めると大泣きが何時間も続く。 ほぼ毎日 1日中 絶え間なく
10.パニックのもたらす結果が大変なため処遇困難な状態 一度パニックが出ると、体力的にもとてもおさめられず、つきあっていかれない状態を呈する。 あれば
11.粗暴で相手に恐怖感を与えるため処遇困難な状態 日常生活のちょっとしたことを注意しても、爆発的な行動を呈し、かかわっている側が恐怖を感じさせられるような状態がある。 あれば

*上記基準によってチェックした結果、家庭にあって通常の育て方をし、かなりの養育努力があっても、過去半年以上様々な行動障害が継続している場合、10点以上を強度行動障害とし、20点以上を特別処遇の対象とする。